🐢 ブランディングガメ(Emydoidea blandingii)の雌雄差|2023CB個体の成長で見えてきた腹甲・尾部の性的二型
アイキャッチ画像出典:たなが飼育中のブランディングガメ(Emydoidea blandingii)
ブランディングガメ(Emydoidea blandingii)の雌雄差
2023CB個体の成長に伴って現れた性的二型の観察
ブランディングガメ(Emydoidea blandingii)を幼体から育てていると、ある時期から個体間に明らかな形態差が現れてくる。
筆者(たな)が2023年CB(Captive Bred:飼育下繁殖)の個体を入手した当初、外見から雌雄を明確に判断することは難しかった。しかし、飼育開始から約3年が経過した2026年現在、腹甲、肛甲板などに明瞭な違いが確認できるようになった。
とりわけ印象的なのが、雄と考えられる個体に現れた腹甲の凹みである。
本稿では、実際に飼育している2023CB個体の写真と観察結果をもとに、ブランディングガメにどのような性的二型(sexual dimorphism)が存在するのか、既存の研究報告と照らし合わせながら整理する。
ブランディングガメにも性的二型が存在する
ブランディングガメでは、成長した雄と雌の間に外部形態上の違いが認められる。
この種の性的二型については古くから研究されており、Graham & Doyleは1979年にマサチューセッツ州のブランディングガメを対象として、性的二型、求愛、卵、孵化個体について報告している。つまり、ブランディングガメの雌雄に形態的な違いが存在すること自体は、以前から研究対象になっている(Graham & Doyle, 1979)。
ただし、孵化した直後から成体と同じような性差が明瞭に見えるわけではない。
カメ類の甲羅は、単純に全体が同じ比率のまま大きくなるわけではない。ヌマガメ科(Emydidae)の腹甲を幾何学的形態測定によって調べた研究では、成長に伴って腹甲の「形」そのものが変化することが示されている(Angielczyk & Feldman, 2013)。
そのため、幼体では目立たなかった特徴が、成長とともに強調されていくことは十分に考えられる。
ブランディングガメ(オス)※腹甲が凹んでいる

ブランディングガメ(メス)※腹甲が平ら

オス、メスの総排泄付近の肛甲板の比較画像(左がオス、右がメス)

最も分かりやすかったのは雄の腹甲の凹み
今回の飼育個体で特に明瞭だった特徴が、雄と考えられる個体の腹甲中央部の凹みである。
真下から腹甲を見ただけでも違いは確認できるが、横方向から観察するとより分かりやすい。腹甲が完全な平面ではなく、中央付近が内側へ入り込むような形状になっている。
この形態には、カメ類の繁殖行動との関係が考えられている。
ヌマガメ科の性的二型を研究したVega & Staytonは、雄の腹甲が凹む種について、交尾の際に雄がドーム状の雌の甲羅に身体を合わせることに適応した形態である可能性を指摘している(Vega & Stayton, 2011)。
興味深いのは、この形態が単なる「見た目の違い」にとどまらないことである。
同研究では、雄と雌で異なる甲羅形状をモデル化して力学的に解析した結果、調査した2種では雌の甲羅の方が同じ荷重に対して発生する応力が小さかった。また、Glyptemys insculpta では雄の凹んだ腹甲が甲羅に生じる応力を増加させることも示された(Vega & Stayton, 2011)。
つまり雄の腹甲形状は、単純に「雄を見分けるための特徴」ではない。繁殖上の機能と関係した形態であり、甲羅の構造そのものにも影響を与えうる。
尾も重要な雌雄判別ポイントになる
カメ類の雌雄判別では、腹甲とともに重要なのが尾と総排泄孔の位置である。
ブランディングガメと同じヌマガメ科に属するヨーロッパヌマガメ(Emys orbicularis)を多数個体用いて調査した研究では、雌雄間で尾の形態に違いが認められ、特に総排泄孔の位置に関係する計測値が性判別に利用できることが示されている(Kaviani & Rahimibashar, 2015)。
そのため、腹甲だけを見て「凹んでいるから100%雄」と判断するよりも、腹甲、尾の太さ・長さ、総排泄孔の位置など、複数の形質を組み合わせて判断する方が適切である。
「3歳で性差が分かった」と「3歳で性成熟した」は別である
今回の観察で特に注意しておきたいのが年齢の解釈である。
筆者の個体は2023CBであり、2026年現在、およそ3年が経過している。この時点で外見上の性差がかなり分かるようになった。
しかし、これは、
「ブランディングガメは3歳で性成熟する」
という意味ではない。
(※筆者の知人は8〜9才でメスが産卵したとの報告もある。)
むしろブランディングガメは、長寿命で性成熟の遅いカメとして知られている。
野生孵化個体とhead-start個体の成長・生存を比較した長期研究でも、本種は長寿命で性成熟の遅い爬虫類として位置づけられている(Golba et al., 2022)。
また、別のhead-starting研究でも、放流個体についてまだ性成熟に達していないことを理由に、繁殖個体群としての成功を評価するには長期間のモニタリングが必要であるとされている(Wijewardena et al., 2023)。
したがって今回記録したものは、性成熟そのものではなく、成長過程で外部形態上の性的二型が判別可能になってきた事例として扱うのが適切だろう。
成長速度そのものにも大きな変動がある
さらに、「何歳になれば雌雄判別できる」と年齢だけで区切ることにも注意が必要である。
ブランディングガメでは、成長が環境条件の影響を受ける。
Richardらは、未成熟のブランディングガメ80個体について腹甲の年間成長量を解析し、前年5月および当年8月の気温などと成長量との間に関連があることを報告している(Richard et al., 2014)。
また、head-start個体の研究では、飼育によって成長を促進された個体は放流時点ですでに野生の約2歳個体に相当する大きさに達していた。その後は野生個体とおおむね平行した成長軌跡を示したという(Golba et al., 2022)。
これは飼育個体を考えるうえでも重要である。
同じ「3歳」であっても、温度、給餌、活動期間、飼育環境などによって体サイズや成長段階が同一になるとは限らない。
したがって、
「2023CB個体では2026年頃から性差が明瞭になった」
という今回の観察は有用な記録ではあるものの、
「ブランディングガメは3歳になれば必ず雌雄判別できる」
と一般化することは避けた方がよい。
むしろ今後、甲長や体重と一緒に記録を残しておけば、「年齢」だけでなくどの程度の体サイズで性的二型が明瞭になったのかを追跡できる。
性差は甲羅だけではない
ブランディングガメの雌雄差は、外見だけに限定されるものではない。
野生個体の血液を調べた研究では、カルシウムやリンなど複数の血液生化学的指標に性差が認められている(Mumm et al., 2019)。
さらに血漿タンパク質を調べた研究では、成体雌で複数のタンパク質分画の濃度が高く、研究者らは繁殖活動との関連を指摘している(Andersson et al., 2021)。
野外での行動にも違いがみられる。
Georgian Bayの個体群を追跡した研究では、雌は時期によって利用する湿地を変化させ、営巣期には沿岸湿地を利用したのに対し、雄は活動期を通じて内陸湿地を広く利用していた(Markle & Chow-Fraser, 2014)。
一方ですべての研究で大きな行動上の性差が検出されるわけではない。カナダ・オタワの個体群では、過去に報告されていた雄、雌、抱卵雌間の移動パターンの違いが確認されなかった例もある(Hasler et al., 2015)。
つまり「雄と雌の違い」は腹甲だけの問題ではない。
形態、生理、繁殖、行動という複数のレベルで性差が存在し、その現れ方は成長段階や環境によっても変化すると考えた方が、本種を正確に理解できる。
2023年から2026年まで育てて見えてきたもの
今回最も興味深かったのは、完成した成体の雄と雌を比較したことではない。
幼体として入手した同じ2023CBの個体を飼育し続けた結果、2026年になって「性差」が肉眼でもはっきり分かるようになったことである。
幼体の頃には目立たなかった腹甲の違いが、成長とともに現れてきた。
特に雄と考えられる個体を横から観察した際、腹甲に形成された凹みは非常に分かりやすい。
これは飼育者だからこそ観察できる変化でもある。
野外研究では、多数の個体を計測することで種としての傾向を明らかにできる。一方、飼育下では同一個体を幼体から継続的に観察できるため、「いつ頃から形態が変化してきたのか」という成長過程を記録できる。
ただし今回の観察だけから、すべてのブランディングガメで同じ年齢に同じ変化が起こるとは結論できない。
その意味で本記録は、2023CBの飼育個体における一観察例として位置づけるのが適切である。
まとめ
ブランディングガメには性的二型が存在し、その研究は以前から行われている(Graham & Doyle, 1979)。
今回、2023CBとして入手した個体を2026年まで飼育したところ、幼体時には判別しにくかった雌雄差が外部形態にはっきり現れるようになった。
中でも分かりやすかったのが、雄と考えられる個体の腹甲に形成された凹みである。
カメ類では、このような雄の腹甲形状は交尾時に雌の甲羅へ身体を合わせる機能との関連が考えられている(Vega & Stayton, 2011)。
ただし、今回約3歳で外見上の性差が明瞭になったことは、3歳で性成熟したことを意味しない。本種は長寿命かつ性成熟の遅いカメであり、外部形態上の性的二型の発現と繁殖可能な性成熟とは区別する必要がある(Golba et al., 2022; Wijewardena et al., 2023)。
また、本種の成長速度は環境条件によって変動することが知られているため、「3歳になれば判別できる」と一般化するのではなく、今回の飼育条件・個体では孵化から約3年の段階で性的二型が明瞭になったと記録するのが妥当だろう(Richard et al., 2014)。
今後も同一個体の甲長、体重、腹甲、尾部を定期的に記録していけば、単なる「雌雄の見分け方」を超えて、ブランディングガメの性的二型が成長とともに形成されていく過程そのものを記録した飼育資料になるはずである。
参考文献(APA形式)
Graham, T. E. & Doyle, T. S. (1979). Dimorphism, Courtship, Eggs, and Hatchlings of the Blanding’s Turtle, Emydoidea blandingii (Reptilia, Testudines, Emydidae) in Massachusetts. Journal of Herpetology, 13, 125–127.
Golba, C. K., Glowacki, G. & King, R. (2022). Growth and Survival of Wild and Head-Started Blanding’s Turtles (Emydoidea blandingii). Ichthyology & Herpetology, 110, 378–387.
Richard, M., Laroque, C. & Herman, T. (2014). Relating annual increments of the endangered Blanding’s turtle plastron growth to climate. Ecology and Evolution, 4, 1972–1980.
Vega, C. M. & Stayton, C. T. (2011). Dimorphism in Shell Shape and Strength in Two Species of Emydid Turtle. Herpetologica, 67, 397–405.
Angielczyk, K. & Feldman, C. (2013). Are diminutive turtles miniaturized? The ontogeny of plastron shape in emydine turtles. Biological Journal of the Linnean Society, 108, 727–755.
Kaviani, M. & Rahimibashar, M. (2015). Sexual dimorphism of the European Pond Turtle, Emys orbicularis, in Anzali Lagoon, Iran. Zoology in the Middle East, 61, 231–235.