アイキャッチ画像出典:たなが飼育し越冬で死なせてしまったケイグルチズガメ(Graptemys caglei)

ケイグルチズガメ(Graptemys caglei)は他のチズガメより寒さに弱いのか

― 愛媛県南予地域の山間部における屋外越冬死亡例とTSD・自然分布・越冬生理からの考察 ―

結論

今回、愛媛県南予地域の山間部において、ケイグルチズガメ(Graptemys caglei)を含む複数種のチズガメを屋外越冬させた。

その結果、

  • ケイグルチズガメ:3匹中3匹死亡(3/3)
  • ヒラチズガメ:越冬成功
  • アラバマチズガメ:越冬成功
  • ワモンチズガメ:越冬成功
  • キマダラチズガメ:越冬成功

という明瞭な差が生じた。

つまり今回の飼育環境では、他の4種が越冬できた一方、ケイグルチズガメは3個体すべてが死亡した。

この結果だけから、

「ケイグルチズガメは他のチズガメより耐寒性が低い」

と科学的に証明することはできない。

しかし、既存研究を調べると、今回の結果と整合する非常に興味深い特徴が存在する。

第一に、ケイグルチズガメはチズガメ属(Graptemys)の中でも南方に限定された自然分布を持つ。

第二に、本種のTSD(温度依存型性決定)におけるpivotal temperatureは約30.0℃と報告され、既報の他の北米産Graptemysより約0.5~1.0℃高温側にある。

ケイグルチズガメ(Graptemys caglei)
【論文まとめ】ケイグルチズガメ(Graptemys caglei)|TSD臨界温度が“他のチズガメより高い”0.5–1.0°C差の意味>アイキャッチ画像出典:[たな](https://breed.tana.cc/tana-breeding-history/)飼育個体 ...

第三に、淡水ガメでは低温下における代謝抑制能力や低酸素・無酸素耐性など、越冬能力に種差が存在する。

そして第四に、今回の実際の飼育観察では、同じ屋外環境で他の4種が越冬したにもかかわらず、ケイグルチズガメは3個体すべてが死亡した。

したがって現時点では、

ケイグルチズガメは南部テキサスの比較的温暖な河川環境に適応しており、一部の他のGraptemysと比較して、長期間の低水温環境に対する生理的許容範囲が狭い可能性がある。

という仮説を立てることができる。

本報告は、この仮説を証明するものではない。

しかし、

「南方に限定された自然分布」

「他のGraptemysより高温側にあるTSD」

「同一環境下でケイグル3個体すべてが死亡し、他の4種は越冬したという飼育観察」

という複数の独立した情報が、同じ方向を示していることは注目に値する。


1.今回の屋外越冬で起きたこと

飼育地は愛媛県南予地域の山間部である。

南予地方というと比較的温暖なイメージがあるが、山間部では沿岸地域とは冬季環境が大きく異なる。

近隣地域の気象観測データを参考にすると、冬季には最低気温が0℃を下回る日が繰り返し発生する。

つまり今回の飼育環境は、

「四国だから冬も暖かい」

という環境ではなく、冬季には継続的な低温曝露が生じる環境だった。

この条件下で複数種のチズガメを屋外越冬させた。

結果は以下の通りである。

種 学名 今回の越冬結果
ケイグルチズガメ Graptemys caglei 3匹中3匹死亡(3/3)
ヒラチズガメ Graptemys geographica 生存・越冬成功
アラバマチズガメ Graptemys pulchra 生存・越冬成功
ワモンチズガメ Graptemys oculifera 生存・越冬成功
キマダラチズガメ Graptemys flavimaculata 生存・越冬成功

特に重要なのは、ケイグルチズガメの死亡が1個体だけではなかったことである。

越冬させたケイグルチズガメ3個体のすべてが死亡した。

今回観察した3個体に限れば、死亡割合は100%(3/3)だったことになる。

一方、同じ冬を経験した他の4種では越冬が成立した。

これはケイグルチズガメの低温適応性を考えるうえで、非常に興味深い観察結果である。

ただし、3個体という小さなサンプルである。

そのため「ケイグルチズガメをこの環境で冬眠させると100%死亡する」という意味ではない。

水温、水深、溶存酸素量、個体の年齢・性別・体重・栄養状態・健康状態などを統制した実験でもない。

したがって本稿では、

「同一飼育環境下における種間比較を伴った飼育観察」

として扱う。


屋外越冬後に死亡が確認されたケイグルチズガメ(Graptemys caglei)の画像

写真.屋外越冬後に死亡が確認されたケイグルチズガメ(Graptemys caglei)

愛媛県南予地域の山間部において屋外越冬させたケイグルチズガメ。今回越冬させた3個体はいずれも春先に死亡が確認された。なお、本写真は今回実際に死亡した個体を記録したものである。

  • ケイグルチズガメ(Graptemys caglei)
  • ケイグルチズガメ(Graptemys caglei)
  • ケイグルチズガメ(Graptemys caglei)
  • ケイグルチズガメ(Graptemys caglei)
  • ケイグルチズガメ(Graptemys caglei)
  • ケイグルチズガメ(Graptemys caglei)

2.なぜ「3匹中3匹死亡」が重要なのか

1個体だけの死亡であれば、

  • もともとの健康状態
  • 偶発的な疾病
  • 個体差
  • 越冬前の栄養状態
  • 越冬場所の違い

など、個体固有の要因で説明できる可能性が比較的大きい。

今回の場合は異なる。

ケイグルチズガメ3個体を越冬させ、その3個体すべてが死亡した。

しかも、同じ冬季環境を経験した別種のチズガメは越冬した。

そのため、

「ケイグルチズガメという種に共通する何らかの生物学的特性が関係していたのではないか」

という仮説を考える理由は、1個体だけの死亡例より強くなる。

ただし、n=3は科学研究としては依然として小さい。

したがって、

3/3という結果は仮説を支持する観察ではあるが、仮説を証明するものではない。

この区別が重要である。


3.ケイグルチズガメはTSD温度も高い

ここで興味深いのが、ケイグルチズガメのTSD(Temperature-Dependent Sex Determination:温度依存型性決定)である。

Wibbels、Killebrew、Crewsは、ケイグルチズガメのTSDについて実験的に調査している。

チズガメ類では基本的に、

低い孵卵温度では雄が多く、高い孵卵温度では雌が多くなる

というTSDが知られている。

この研究で推定されたケイグルチズガメのpivotal temperature(雌雄比がおおむね1:1となる転換温度)は約30.0℃だった。

さらに著者らは、この値が既報の北米産Graptemysより、

約0.5~1.0℃高温側にある

ことを指摘している。

これは重要な情報である。

ケイグルチズガメは、少なくとも胚発生・性決定という側面では、他のGraptemysと比較して高温側にシフトした温度特性を持っている。


4.「TSDが1℃高い=耐寒性が1℃低い」ではない

ただし、ここで誤解してはいけない。

TSDのpivotal temperatureは、

卵の発生過程で性別を決定する温度

である。

一方、今回問題としている耐寒性は、

成体・亜成体が冬季の低水温環境で長期間生存できる能力

である。

両者は異なる生理現象である。

したがって、

TSDが1℃高い
↓
成体も1℃寒さに弱い

という直接的な関係は成立しない。

また、ケイグルチズガメについて、

「TSDのpivotal temperatureが高いことが成体の低温耐性を低下させる」

ことを直接証明した研究も確認されていない。

それでもTSDの違いは興味深い。

カメ類では、TSDのpivotal temperatureに地理的・種間的な違いが存在し、その種が進化してきた繁殖環境や温度環境との関係が研究されている。

したがってTSDは成体の耐寒性そのものを測定する指標ではないが、

ケイグルチズガメの温度生物学的特性が他のGraptemysと完全に同じではない

ことを示す独立した情報として扱うことができる。


5.ケイグルチズガメは非常に南方に限定された種である

次に重要なのが自然分布である。

ケイグルチズガメは米国テキサス州のグアダルーペ川水系を中心とする、非常に限られた地域に分布する。

チズガメ属全体で見ると南方性の強い種である。

遺伝学的研究でも、グアダルーペ川やサンマルコス川の内部に地域的な集団構造が存在することが報告されている。

つまり本種は、

北米大陸の広い気候帯に分布する広域種ではなく、南部テキサスの特定河川環境に強く結びついて進化してきた種

と考えることができる。

これは、カナダまで分布するヒラチズガメとは対照的である。


6.ヒラチズガメには寒冷地越冬の直接的な証拠がある

比較対象として非常に分かりやすいのがヒラチズガメ(Graptemys geographica)である。

ヒラチズガメは米国北部だけでなくカナダまで自然分布する。

北方個体群では秋から翌春まで長期間水中越冬することが知られている。

さらに、冬季に氷で覆われるような北方水域でも越冬することが野外研究によって確認されている。

したがってヒラチズガメについては、

寒冷環境下で長期間越冬できるという直接的な生態学的証拠が存在する。

今回の飼育観察でもヒラチズガメは越冬した。

一方、南部テキサスに限定分布するケイグルチズガメでは、北方寒冷地における同様の越冬実績は期待できない。

この自然史の違いは重要である。


7.淡水ガメの「耐寒性」は最低気温だけでは決まらない

水生ガメの冬季生存能力は、単純に、

「何℃まで耐えられるか」

だけで決まるわけではない。

低温になると変温動物であるカメの代謝速度は大きく低下する。

これは長期間餌を食べずに越冬するために重要である。

しかし水中越冬では同時に呼吸の問題が生じる。

淡水ガメでは種によって、

  • 低温時の代謝抑制能力
  • 水中から酸素を取り込む能力
  • 低酸素耐性
  • 無酸素耐性
  • グリコーゲンの蓄積・利用能力
  • 嫌気代謝によって生じた乳酸への耐性
  • 甲羅や骨を利用した酸塩基平衡の調節能力

などに違いが存在する。

そのため冬季生存能力は、

低水温耐性 × 代謝抑制能力 × 酸素利用能力 × 低酸素・無酸素耐性 × エネルギー蓄積

などの総合的な生理能力として考える必要がある。


8.今回の結果を三つの独立した証拠から考える

今回の観察を既存研究と組み合わせると、興味深い構図が見えてくる。

① 自然分布

ケイグルチズガメは南部テキサスの限られた河川水系に分布する南方性の強いGraptemysである。

↓

寒冷な北方環境を経験してきた種ではない。

② TSD

ケイグルチズガメのpivotal temperatureは約30.0℃であり、既報の他の北米産Graptemysより約0.5~1.0℃高い。

↓

少なくとも胚発生・性決定に関する温度特性は高温側にある。

③ 今回の飼育観察

同じ南予山間部の冬季環境で、

  • ヒラチズガメ → 生存
  • アラバマチズガメ → 生存
  • ワモンチズガメ → 生存
  • キマダラチズガメ → 生存
  • ケイグルチズガメ → 3/3死亡

という結果になった。

↓

実際の飼育下でもケイグルチズガメだけ異なる結果になった。

この三つは互いに異なる種類の情報である。

しかし、

ケイグルチズガメは他の一部のGraptemysより高温環境に適応しており、長期間の低温環境に対する生理的許容範囲が狭いのではないか

という仮説とは、三つとも整合する。


9.特に注目すべきは「南方種だから」だけでは説明できないこと

今回の結果で特に興味深い点がある。

それは、

ケイグルチズガメ以外にも南方系のGraptemysを飼育していた

ことである。

アラバマチズガメ、ワモンチズガメ、キマダラチズガメも米国南東部を中心に分布する種である。

それにもかかわらず、今回これら3種は越冬した。

死亡したのはケイグルチズガメだけだった。

しかも1個体ではなく、

3個体すべてだった。

したがって今回の結果は、

「南方に生息するチズガメは寒さに弱い」

という単純な説明だけでは十分ではない。

むしろ、

ケイグルチズガメに特有、あるいは特に強く現れる低温生理上の特徴が存在する可能性

について検討する価値がある。

これは今後、低温時の代謝率、活動停止水温、溶存酸素要求量、低酸素耐性などを種間比較することで検証できる可能性がある。


10.それでも「寒さで死んだ」と断定できない

今回ケイグルチズガメ3個体すべてが死亡したことは重要な観察結果である。

しかし、それでも死亡原因を低温と断定することはできない。

例えば、

  • 越冬前の健康状態
  • 年齢
  • 性別
  • 体格
  • 栄養状態
  • 水深
  • 越冬位置
  • 水質
  • 溶存酸素
  • 感染症
  • 急激な温度変化

などが関係した可能性は残されている。

さらに、3個体というサンプル数は科学的な種間比較としては小さい。

したがって、

「ケイグルチズガメは南予山間部で越冬すると100%死亡する」

とは言えない。

今回言えるのは、

今回観察したケイグルチズガメでは3個体中3個体が死亡し、その結果が本種の南方的な自然分布や高温側のTSDという既存研究から予測される温度適応性の違いと整合した。

というところまでである。


11.飼育上の示唆

科学的な因果関係を証明するためには、より多くの個体と統制された実験が必要である。

しかし、飼育という観点では別の判断も必要になる。

今回、実際に3個体すべてを死亡させてしまった以上、同じ条件を再び生体で試して確認することは適切ではないと私は考えている。

少なくとも、

  • 南方に限定された自然分布
  • 他のGraptemysより高温側にあるTSD
  • 寒冷地における越冬研究の不足
  • 淡水ガメ類に存在する越冬生理の種差
  • 今回の3/3死亡という実際の結果

を考慮すれば、

冬季に氷点下となる愛媛県南予地域の山間部のような環境で、ケイグルチズガメを無加温で屋外越冬させることには慎重であるべき

と考える。

同じGraptemysだからといって、

「他のチズガメが冬眠できるならケイグルチズガメも大丈夫」

とは考えない方がよいだろう。


12.最終的な考察

今回の記録で最も重要なのは、

ケイグルチズガメが1個体死亡したことではなく、3個体すべてが死亡した一方、比較対象となった他の4種は同じ冬を越した

という点である。

そして既存研究に目を向けると、

自然分布は南方に偏っている。

TSDのpivotal temperatureも他の既報Graptemysより高温側にある。

今回の屋外越冬では3個体すべてが死亡した。

この三つの情報が同じ方向を向いている。

現時点では、これをもってケイグルチズガメの低い耐寒性が「証明された」とは言えない。

しかし、

「ケイグルチズガメは他の一部のGraptemysと比較して、長期間の低温環境への適応能力が低い可能性がある」

という仮説を支持する一つのケースとして、今回の観察には記録する価値があると考えている。

今後必要なのは生体を危険な低温にさらす再現実験ではなく、野外での冬季水温データ、活動停止温度、既存標本・生理学研究、原産地の越冬環境などを組み合わせ、本種の低温生態をさらに検証していくことだろう。

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ケイグルチズガメ(Graptemys caglei)

参考文献(APA形式)

Bull, J. J., Vogt, R. C., & McCoy, C. J. (1982). Sex determining temperatures in turtles: A geographic comparison. Evolution, 36.

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Vogt, R. C., Bulté, G., & Iverson, J. B. (2018). Graptemys geographica (LeSueur 1817)—Northern Map Turtle, Common Map Turtle. Chelonian Research Monographs.

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Wibbels, T., Killebrew, F. C., & Crews, D. (1991). Sex determination in Cagle’s map turtle: Implications for evolution, development, and conservation. Canadian Journal of Zoology, 69, 2693–2696.