アイキャッチ画像出典:たなが飼育中のトウブハコガメ(Terrapene carolina carolina)

🐢 カロリナハコガメ(Terrapene carolina)の性格

― 飼育者・繁殖者のための行動生態学レビュー ―


1. 研究の背景:ハコガメの「性格」研究は新しい分野

カロリナハコガメ(Terrapene carolina)の性格研究は、
ここ10年ほどで急速に発展してきた新しい行動生態学の領域である。

それ以前、カメは「本能で動く単純な動物」と考えられており、
個体ごとに異なる“性格”が議論されることはほとんどなかった。

しかし、2010年代後半以降、行動生態学において
パーソナリティ(personality)」という概念が
鳥類や哺乳類だけでなく、爬虫類にも適用されるようになった。

その中でも、Terrapene carolina(カロリナハコガメ)は
長寿で個体識別が容易であり、行動観察に向くことから、
性格研究のモデル生物として注目されている
(Carlson & Tetzlaff, 2020; Roe et al., 2023)。


2. 性格(パーソナリティ)という概念

動物の「性格(パーソナリティ)」とは、
時間を超えて安定した個体間の行動差を指す。

主要な性格軸と、ハコガメでの例を以下に示す。

内容 ハコガメでの例
大胆さ(Boldness) リスクを取る傾向 捕獲後に頭を出すまでの時間
探索性(Exploration) 新しい環境への関心 飼育箱内での移動頻度
活動性(Activity) 行動量・頻度 一日の移動距離
社会性(Sociability) 他個体への接近傾向 他個体への接触頻度

この中で、カロリナハコガメでは特に「大胆さ(boldness)」が注目されている。

ブランディングガメ(Emydoidea blandingii)
【論文考察・まとめ】 ブランディングガメ(Emydoidea blandingii)における性格と再導入成功率 ― 探索性が左右する「生き残れる個体」の条件 ―>アイキャッチ画像出典:[たな](https://breed.tana.cc/tana-breeding-history/)が飼育中のブ...

3. 性格は生まれつきか、育ちか?

3.1 生まれつきの傾向

Carlson & Tetzlaff (2020) による研究では、
飼育下の幼体と野生の成体を比較した結果、
どちらの個体群でも「頭を出すまでの時間」に個体差があり、
数年間にわたってその差が変化しなかったことが確認された。

つまり、性格は一時的なものではなく、
生得的かつ長期的に安定した特性であることが示唆された。

🧠 性格は「一生続く個性」であり、外部環境に左右されにくい行動的特徴。

引用:
Carlson, B. E., & Tetzlaff, S. J. (2020). Long‐term behavioral repeatability in wild adult and captive juvenile turtles (Terrapene carolina): Implications for personality development. Ethology, 126(7), 668–678.


3.2 環境による可塑性

Roe et al. (2023) の研究では、
同じ個体でも気温・植生・捕食圧の違いによって行動の出方が変化することが報告された。

つまり、性格の“方向”(大胆 or 臆病)は固定的だが、
その表現の強さは環境によって調整される

🧩 性格は“変わる”のではなく、“表れ方が変化する”特性である。

引用:
Roe, J. H., Chavez, J. J., & Hudson, K. R. (2023). Ecological and fitness correlates of personality in a long-lived terrestrial turtle. Herpetologica, 79(2), 95–108.


4. 飼育下と野生下で異なる性格の意味

4.1 飼育下では「大胆」が有利

飼育下では捕食者が存在せず、温度・餌が安定しているため、
大胆な個体ほど早く環境に慣れ、餌付きが良い傾向がある。

観察・繁殖においても扱いやすく、
「人懐っこい」「好奇心が強い」など、ポジティブな印象を持たれる。

大胆=飼いやすい、環境適応が早い。

(Carlson & Tetzlaff, 2020)


4.2 野生下では「慎重」が有利

一方、野生では捕食・車両事故・寒暖差などのリスクが多く、
大胆な個体ほど行動範囲が広く、早く活動を始めるが短命な傾向がある。
逆に、臆病な個体は「石橋を叩いて渡る」ように慎重で、長生きしやすい。

大胆=行動的だが短命。
臆病=慎重で長寿命。

(Roe et al., 2023)


5. 色と性格・免疫の関係 ― Warren & Klukowski (2025)

Warren & Klukowski (2025) は、
東部ハコガメ(Terrapene carolina carolina)の野生個体を対象に、
甲羅の色(明度・赤み)と性格および免疫機能の関係を解析した。

5.1 研究概要

  • 対象:野生成体のオス・メス
  • 測定項目:
    • 甲羅の色(明度・彩度・赤み・黒化度)
    • 行動試験による大胆さ(頭を出すまでの時間)
    • 免疫機能(溶血能)およびストレスホルモン(コルチコステロン)

5.2 結果

  • オスはメスよりも赤みの強い斑点を持つ。
  • 大胆な個体ほど甲羅が明るく、黒化が少ない(melanismが低い)
  • 免疫機能の高い個体ほど、彩度の高い斑点を持つ。

🧩 結論:甲羅の色は「性格(大胆さ)」と「健康状態」を示す“誠実なシグナル”の可能性。

引用:
Warren, C. R., & Klukowski, M. (2025). Shell colouration is associated with sex, boldness, and innate immunity in wild adult eastern box turtles (Terrapene carolina carolina). Amphibia-Reptilia.


5.3 セレクトブリードへの示唆

飼育下では、模様や色の濃淡による選別(セレクトブリード)が進んでいる。
この研究の結果は、色と性格が遺伝的・生理的に結びついている可能性を示しており、
「赤みが強い個体は活発で人慣れしやすい」という傾向があるかもしれない。

ただし、著者らは光環境・温度・食性などの環境要因も
色彩発現に強く影響すると述べており、現段階では仮説的関連である。


6. 総合考察

環境 大胆な個体 臆病な個体
飼育下 餌付きが良く、扱いやすい 慣れるまで時間がかかる
野生下 探索的だがリスクが高く短命 慎重で長寿命
外見 明るく赤みが強い 暗く黒化傾向が強い
健康 免疫活性が高い傾向 ストレス耐性が高い傾向

🧠 まとめ:カロリナハコガメの性格は安定した生得的特性であり、
その違いは環境によって“長所”にも“短所”にもなる。

7. 飼育・繁殖への実践的示唆

本研究群から得られる知見は、カロリナハコガメの飼育・繁殖管理において 以下の重要な示唆を与える。

  • 大胆な個体は新環境への順応が早く、給餌・観察が容易である
  • 一方、慎重な個体は繁殖期のストレス耐性が高く、長期飼育に向く可能性がある
  • 甲羅の色彩(特に赤み・明度)は、行動傾向や健康状態と相関する可能性がある

これらは「性格=優劣」ではなく、 繁殖目的・管理環境に応じた個体選択指標として活用すべき特性である。


8. 参考文献(APA形式)

  • Carlson, B. E., & Tetzlaff, S. J. (2020). Long‐term behavioral repeatability in wild adult and captive juvenile turtles (Terrapene carolina): Implications for personality development. Ethology, 126(7), 668–678.
  • Roe, J. H., Chavez, J. J., & Hudson, K. R. (2023). Ecological and fitness correlates of personality in a long-lived terrestrial turtle. Herpetologica, 79(2), 95–108.
  • Warren, C. R., & Klukowski, M. (2025). Shell colouration is associated with sex, boldness, and innate immunity in wild adult eastern box turtles (Terrapene carolina carolina). Amphibia-Reptilia.
  • Carlson, B. E., & Robinson, W. (2022). Trait covariances in eastern box turtles do not support pleiotropic effects of the melanocortin system on color, behavior, and stress physiology. Journal of Herpetology, 56(3), 478–488.