アイキャッチ画像提供:patoka_jpさんブリードのキボシイシガメ(Clemmys guttata)

キボシイシガメ(Clemmys guttata)の生態と温度依存的性決定

― 繁殖戦略と気候変動リスクの科学的整理 ―


はじめに

キボシイシガメ(Clemmys guttata)は北アメリカ東部に分布する半水棲の淡水ガメであり、湿地、泥炭地、浅い池などの冷温帯湿地環境に適応した種である。

体表に黄色の斑点が散在する特徴的な外見から英名では Spotted Turtle と呼ばれる。

本種は湿地開発や生息地の断片化の影響を受けやすく、北米の多くの地域で保全対象種として扱われている(Litzgus & Brooks, 1998)。

また、日本ではブリーダーによる繁殖個体が多く流通する比較的ポピュラーな種であるが、野生個体群は環境変化に非常に敏感であり、近年CITES附属書Ⅰへの掲載提案が議論されたことからも、その脆弱性がうかがえる。

本記事では、キボシイシガメの

  • 繁殖生態
  • 冬眠生態
  • 体温調節
  • 食性
  • 温度依存的性決定(TSD)

について、既存研究を基に整理する。


1. 繁殖生態

キボシイシガメの繁殖期は主に 春(5〜6月) である。

メスは通常 6月中旬〜下旬 に産卵を行い、産卵は夜間に行われることが多い。

産卵場所は

  • 岩盤の露出地
  • 乾燥した浅い土壌
  • 日当たりの良い開けた場所

など比較的乾燥した環境が選ばれる(Litzgus & Brooks, 1998)。

平均クラッチサイズは

約5個(1〜7個)

であり、通常は 年1回の産卵 である。

また個体によっては数年間産卵しない例も報告されている。


2. 地理的変異(クラッチサイズと卵サイズ)

興味深いことに、本種では地理的変異が確認されている。

北方個体群では

  • クラッチサイズ:多い
  • 卵サイズ:小さい

南方個体群では

  • クラッチサイズ:少ない
  • 卵サイズ:大きい

という傾向が報告されている(Litzgus & Mousseau, 2006)。

これは

短い繁殖期間への適応

と考えられている。

寒冷地域では

「小さい卵を多く産む戦略」

が有利になると考えられている。

キボシイシガメ(Clemmys guttata)
🐢 キボシイシガメ(Clemmys guttata)の産卵数と卵サイズはなぜ違うのか ― 地理的変異から読み解く繁殖戦略 ―>アイキャッチ画像提供:[patoka_jp](https://x.com/patoka_jp)さんブリードのキボシイシガメ(Clemm...

3. 冬眠生態

北方地域では

  • 冬眠開始:9〜10月
  • 活動再開:4月

となる。

冬眠場所(hibernacula)は

  • スファグナム苔(ミズゴケ)湿地
  • 岩の隙間
  • 凍結しにくい浅水域

などである(Litzgus et al., 1999)。

冬眠中の体温は

約0〜5°C

で推移する。

また

  • 複数個体による集団冬眠
  • 同じ冬眠場所の再利用(高いサイト忠実性)

も確認されている。


4. 体温調節と季節行動

キボシイシガメの活動温度範囲は

約3〜32°C

とされる。

好適体温は

20〜26°C

である(Yagi & Litzgus, 2013)。

春は交尾や摂餌活動が活発になる。

一方で夏季(7〜8月)は

高温を避けて活動を低下させる

ことがあり、これは

夏眠(aestivation)

に近い行動と考えられている(Litzgus & Brooks, 2000)。


5. 食性

キボシイシガメは雑食性である。

主な餌資源

  • 昆虫
  • ミミズ
  • 小型貝類
  • 水草
  • 藻類

など(Ernst, 1976)。

水温との関係も研究されており

  • 14°C以上 → 摂餌開始
  • 30°C以上 → 活動低下

が観察されている(Ernst, 1982)。

このことから本種は

高温環境にあまり強くない種

であることが示唆される。


6. 温度依存的性決定(TSD)

キボシイシガメは

温度依存的性決定(TSD)

を示す。

これは

孵化温度によって性別が決まる

仕組みである。

本種では一般的に

パターンIa型

と呼ばれるタイプが報告されている(Ewert & Nelson, 1991)。


孵化温度と性比

孵化温度 性別傾向
24–26°C 主にオス
27–28°C 雌雄混在
29°C以上 主にメス

雌雄比が1:1になる温度(ピボタル温度)は

約27〜28°C

と推定されている。


分子メカニズム

近年の研究では、TSDにおいて温度が

  • 遺伝子発現
  • ホルモン合成

を変化させることが明らかになっている。

ミシシッピアカミミガメの研究では

  • pSTAT3活性化
  • Foxl2発現
  • アロマターゼ増加

により

雌性分化が誘導される

ことが報告されている(Wu et al., 2024)。

ただしこの分子メカニズムが

キボシイシガメ(Clemmys guttata )で完全に同様かどうかは

さらなる研究が必要である。


7. 気候変動の影響

温度依存的性決定を持つ種では

巣内温度の変化 → 性比の変化

を引き起こす可能性がある。

近年の研究では

キボシイシガメの性比が

気候変動と関連する可能性

が示唆されている(Roberts et al., 2023)。

そのため

  • 湿地保全
  • 産卵場所の環境維持

が長期的な保全戦略として重要視されている。


8. まとめ

キボシイシガメは

  • 湿地環境に依存する半水棲ガメ
  • 温度に強く影響される生理
  • 温度依存的性決定(TSD)

という特徴を持つ。

特に

孵化温度27〜28°C付近で雌雄比が均衡

することが示唆されている。

そのため

気候変動による温度変化は

将来的な個体群構造へ影響する可能性

がある。

本種の長期的保全には

  • 湿地生態系の保護
  • 繁殖環境の維持
  • 温度環境の継続的研究

が重要である。


参考文献(APA)

Ernst, C. H. (1976). Ecology of the spotted turtle, Clemmys guttata, in southeastern Pennsylvania. Journal of Herpetology, 10(1), 25–33.

Ernst, C. H. (1982). Environmental temperatures and activities in wild spotted turtles. Journal of Herpetology, 16(2), 112–120.

Ewert, M. A., & Nelson, C. E. (1991). Sex determination in turtles. Copeia, 1991(1), 50–69.

Litzgus, J. D., & Brooks, R. J. (1998). Reproduction in a northern population of Clemmys guttata. Journal of Herpetology, 32(2), 252–259.

Litzgus, J. D., Costanzo, J. P., Brooks, R. J., & Lee, R. E. (1999). Phenology and ecology of hibernation in spotted turtles. Canadian Journal of Zoology, 77(9), 1348–1357.

Litzgus, J. D., & Brooks, R. J. (2000). Habitat and temperature selection of spotted turtles. Journal of Herpetology, 34(2), 178–185.

Litzgus, J. D., & Mousseau, T. A. (2006). Geographic variation in reproduction in a freshwater turtle. Herpetologica, 62(2), 132–140.

Roberts, H., Willey, L. L., Jones, M. T., et al. (2023). Climate change and wetland configuration predict sex ratios of a freshwater turtle. Global Change Biology.

Wu, P., Wang, X., Ge, C., et al. (2024). pSTAT3 activation of Foxl2 initiates the female pathway underlying TSD. PNAS.

Yagi, K. T., & Litzgus, J. D. (2013). Thermoregulation of spotted turtles. Journal of Thermal Biology.